「カーボンニュートラル」という言葉を、ニュースで耳にすることが増えました。けれども、「CO₂をまったく出さないことですか」と聞かれれば、少し違います。私たちは呼吸をするだけでもCO₂を出しますし、電気や交通を一日でゼロにすることもできません。では、いったい何をゼロにするのでしょうか。
気候変動は、もう始まっている
このところ、夏の暑さや雨の降り方が以前とは違う、と感じることはないでしょうか。日本では猛暑や短時間の激しい雨が増え、世界では干ばつや洪水、森林火災が各地の暮らしを揺さぶっています。一つひとつの出来事をすべて気候変動だけで説明することはできませんが、地球全体が長い時間をかけて暖まり、その影響が広がっていることは明らかになっています。
その大きな原因が、石炭や石油、天然ガスを使うことで増えてきたCO₂です。CO₂そのものが悪者なのではありません。植物は光合成に使い、私たちも呼吸によって排出しています。問題は、森林や海、土壌が吸収できる量を超えて、人間が出し続けてきたことです。受け止めきれなかった分が大気中にたまり、地球の熱を逃げにくくしています。
「ゼロ」とは、差し引きゼロ
ここで登場するのが、カーボンニュートラルです。まず、これから出すCO₂をできる限り減らします。それでも、飛行機や船、農業、ものづくりなど、すぐにはゼロにできない排出が残ります。そこで残った分を、森林や土壌による吸収、あるいは回収・貯留の技術で補います。排出と吸収を差し引きして、全体としてゼロを目指す。これがカーボンニュートラルの基本的な考え方です。
家計にたとえるなら、支出を減らすだけでなく、足りない分を別の方法で補い、最後に収支を合わせるようなものです。ただし、吸収できるからといって、出し続けてよいわけではありません。最初にすべきことは、あくまで排出そのものを大きく減らすことです。
二つの道を、同時に進む
気候変動対策には、二つの道があります。一つは、エネルギーや交通、建設の方法を変えて、これから出るCO₂を減らす道。もう一つは、森林を守り、土を育て、荒れた土地を再生して、炭素を自然の中へ戻す道です。どちらか一方だけでは足りません。
そして、この二つ目の道は、HFIが活動してきた農村の暮らしとも深くつながっています。土地がよみがえり、作物が育てば、農家の収入が生まれ、子どもの学びを支える力にもなります。気候変動対策という大きな話は、実は、地域の暮らしをどう立て直すかという身近な問いでもあるのです。
このシリーズでは、「排出を減らすこと」と「炭素を吸収すること」の二つの方向から、企業や自治体の挑戦、森林や土壌の働き、そしてHFIの現場を見ていきます。次回は、東京駅前の大規模建設で、CO₂をできるだけ出さないために何が始まっているのかを考えます。
HFI代表 福井 誠
