大きな建物を見たとき、私たちは完成した姿に目を奪われます。けれども、その建物ができるまでに、どれだけのエネルギーが使われ、どれだけのCO₂が出るのかを考えることは、あまりありません。実は建物は、使い始めてからだけでなく、つくっている最中にも多くのCO₂を排出しています。
建設現場は、エネルギーをたくさん使う
東京駅日本橋口前では、2028年の完成を目指してTorch Towerの建設が進んでいます。高さは約385メートル。完成すれば日本一の高さになる予定です。しかし今回注目したいのは、高さではありません。工事の段階からCO₂を減らそうとしている点です。
建設現場では、クレーンや掘削機が動き、資材を運ぶ車両が行き交います。鉄やコンクリートをつくるにも、現場へ運ぶにもエネルギーが必要です。いわば、大きな建物は、完成前からたくさんのエネルギーを食べているのです。
燃料を替えると、何が変わるのか
そこでTorch Towerの現場では、大型建設機械に使う燃料を、石油由来の軽油からバイオ燃料へ切り替える試みが始まりました。使われている「サステオ」は、生物資源を原料とする次世代のバイオディーゼル燃料です。
もちろん、燃やすときにCO₂がまったく出ないわけではありません。ただ、原料となる植物などは、育つ過程で大気中のCO₂を取り込んでいます。そのため、地下から新たに石油を掘り出して燃やす場合に比べると、全体として大気中へ加わるCO₂を抑えられると考えられています。
たとえるなら、貯金を取り崩して使うのと、最近受け取ったお金を使う違いに少し似ています。化石燃料は、地中に長く蓄えられていた炭素を新たに大気へ出します。バイオ燃料は、比較的最近、植物が大気から取り込んだ炭素を循環させる考え方です。
一つの実験を、社会の仕組みにする
では、燃料を替えれば問題は解決するのでしょうか。そう簡単ではありません。燃料を安定して用意できるか、値段は現実的か、機械の性能や安全性に問題はないか。実際の建設現場で使いながら、一つずつ確かめる必要があります。
だからこそ、Torch Towerの試みには意味があります。一つの大きな現場で経験を積み、その成果と課題をほかの工事へ広げることができれば、特別な実験が、やがて建設業界の普通の選択肢になるかもしれません。カーボンニュートラルという大きな目標も、現場で燃料を一つ選び直すところから始まります。
ただし、ここで一つ疑問が残ります。これから出るCO₂を減らすだけで、すでに大気中にたまったCO₂はどうなるのでしょうか。次回は、蛇口を閉めても床にこぼれた水は残る、というたとえから、炭素を「取り除く」というもう一つの方向を考えます。
HFI代表 福井 誠
