前回、口腔ケア支援を考えるうえで、水と衛生の環境を無視できないことを書きました。では、その問いに向き合ったとき、私たちは何を選んだのか。現地であらためて見えてきたのは、そこにはすでに、人びとの暮らしの中に根づいた口腔ケアの知恵があるということでした。
現地の人びとは、私たちが日常的に使うような歯磨き粉を持たなくても、樹木の枝や草を使って口の中を清潔に保つ、古くからの方法を続けていました。いわば「チューイング」による口腔ケアです。しかも、子どもたちの中には、歯並びがよく、口腔の状態も比較的良好な子が少なくありませんでした。
この現実を前にすると、「近代的な方法を導入すれば、必ず改善する」という発想そのものを見直さなければならないと感じました。現地にないものを持ち込むことが、必ずしも前進とは限らない。むしろ、すでにある知恵や習慣を理解せずに外から方法だけを入れれば、文化や生活のバランスを崩してしまうことさえあります。
そこで、私たちは歯科大学の学生たちと話し合い、今回のスタディツアーでは、歯磨きペーストは配らず、歯ブラシのみを提供することにしました。そして支援の中心を、「製品を渡すこと」ではなく、「口腔ケアの意味を一緒に学ぶこと」に置きました。具体的には、口の健康を保つことの意味、食べ物と歯の健康の関係、毎日の習慣が体に与える影響などを、現地の暮らしに即して考えるセッションを設けました。地元の小学校や公共スペースで行ったその学びは、単なる衛生指導ではなく、「自分たちの生活の中で、どのような方法が続けられるのか」を一緒に考える場になりました。
その反応は、私たちの予想以上のものでした。子どもたちだけでなく、学校の先生方からも、「こうしたトータルな観点から口腔ケアを学ぶ機会は初めてだ」という声が寄せられました。そこでは、歯だけを見るのではなく、食べ物、暮らし、環境、習慣まで含めて健康を考える視点が共有されていたのだと思います。
この経験を通して感じたのは、支援とは「正しい答えを渡すこと」ではない、ということです。本当に必要なのは、相手の暮らしを理解し、その地域にすでにある知恵や方法を尊重しながら、不足している部分を一緒に補っていくことです。それは時間のかかるやり方です。すぐに成果が見えるわけでもありません。けれども、一方的に教えるのではなく、ともに考える関係が生まれたとき、支援ははじめて地域の中に根づいていきます。
環境、健康、教育。これらは別々の課題ではなく、現場では一つながりのものとして存在しています。今回の口腔ケア支援も、健康だけの話ではありませんでした。環境への配慮を含めて考えたからこそ、支援のあり方そのものを見直すことができたのです。
支援とは、何かを与えることではなく、共に考えることなのかもしれません。そして、その姿勢こそが、持続可能な関係をつくる第一歩なのではないでしょうか。
次回は、こうした経験を踏まえながら、「支援する側」と「支援される側」という関係そのものを、どう捉え直せるのかをさらに考えていきます。
