「環境対策にお金をかけると、経済の負担が増える」。よく聞く言葉です。
でもこの考え方には、大きな見落としがあります。対策をしなかった場合のコストを、計算に入れていないのです。
台風や洪水の被害復旧にかかる莫大な費用。熱中症患者の増加による医療費。不作が続いたときの食料輸入コスト。これらは、環境対策をしないことで積み上がる「後払いの請求書」です。
農業はその典型です。気温や降水量の変化は、農作物の収穫量と品質に直結します。ネパール・ヌワコット郡では、男性が収入を求めて国外出稼ぎに去り、残された女性が低生産の農業を担い、耕作放棄地が増え続けてきました。生産性が上がらなければ収入は増えず、収入が増えなければ出稼ぎに行くしかない。その悪循環の中で、子どもの教育は後回しにされてきました。
HFIはこの現場で、「環境か、経済か」ではなく「両方を同時に」という実践を積み重ねています。耕作放棄地にモリンガ・ウコン・コーヒーなどを組み合わせて植える「アグロフォレストリー」は、植物が大気中のCO₂を吸収して土に蓄える「炭素隔離」を活用しながら、食料と換金作物を同時に生産します。
2025年度の報告では、5㎡の試験区画だけで30kg以上のウコンが収穫できました。土地が「生きた農地」として復活する。すると農家に収入の見通しが立ち、「村で生きていける」と判断した農家が国外出稼ぎを止めて戻ってきています。
「環境か、経済か」は間違った問いです。正しい問いは「どうすれば両立できるのか」。その答えを、ネパールの農村が少しずつ示しています。
次回は、「教育と現場のつながり」という視点から、学ぶことと社会を変えることの関係を探ります。
(HFI代表 福井誠)
