今日、あなたが食べた野菜はどこで育ちましたか。
環境問題を語るとき、農業それ自体が、しばしば「環境に負荷をかけてきた分野」として取り上げられます。とくに、森林を切り開いて農地を広げることや、化学肥料・農薬に依存した近代的な生産方式は、土壌や生態系に負荷を与えてきました。さらに、化学肥料は製造の段階でも、土の中で分解される過程でも温室効果ガスの排出と関わるため、気候変動との関係でも問題視されてきました。
こうした指摘には、確かに事実に基づく部分があります。しかし、農業をそれだけで捉えてよいのでしょうか。農業は、環境問題の影響を受ける側であると同時に、環境を守り、回復していく力を持つ営みでもあります
ネパール・ヌワコット郡の耕作放棄地を見てください。人口が流出し、農地が放置されると何が起きるか。雨季に土壌が流れ出し、川が濁り、下流の環境が悪化します。「農業をやめた土地」が、むしろ環境を壊していく。
HFIが取り組むアグロフォレストリーは、この逆転の発想から始まっています。放棄地にモリンガ・ウコン・アムラ・コーヒーなどを組み合わせて植える。樹木は成長する過程でCO₂を吸収し、炭素を土に蓄えます(炭素隔離)。土の保水力が回復し、土壌の流出が止まり、生態系が戻ってくる。
同時に、農家には収穫物という収入が生まれます。2025年度の試験栽培では、モリンガは水分管理に課題があったものの、ウコンは予想を大きく上回り、わずか5㎡の区画で30kg以上を収穫。地域の農家がこの結果を見て「自分もやってみたい」と関心を高めています。
もう一つ見逃せないのが、この地域に眠る換金性の高い自生果樹の存在です。トリブバン大学の土壌調査で、農家自身も気づいていない有用植物が確認されました。「農業をやめた土地」が、実は可能性を秘めた資源だったのです。
農業を「問題の原因」として切り捨てるのではなく、「解決の現場」として捉え直すこと。その視点の転換が、環境と食と暮らしをつなぎ直す第一歩です。
次回は、この農業の変化が農家の収入と生活にどんな変化をもたらしているかを見ていきます。
(HFI代表 福井誠)
